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東京高等裁判所 昭和48年(行ケ)34号 判決

原告

主婦連合会

右代表者会長

奥むめお

原告

奥むめお

右両名訴訟代理人弁護士

穂積忠夫

吉田正之

被告

公正取引委員会

右代表者委員長

高橋俊英

右指定代理人

富田孝三

外三名

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一、原告らの請求の趣旨及び請求原因ならびに被告の答弁に対する反論

原告代理人は、「原告らに対する昭和四六年(判)第五号事件につき被告が昭和四八年三月一四日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求原因及び被告の答弁に対する反論として次のとおり陳述した。

一、原告主婦連合会(以下原告主婦連という。)は、肩書地に事務所をもち、全国各地の消費者団体及び個人を会員とし、ひろく消費者の利益の擁護等を主たる目的とする法人格はないが代表者の定めのある社団である。原告主婦連自身、またその会員である個人及び会員団体の構成員ならびに原告奥むめおは、いずれも果実飲料等の商品の一般消費者である。

二、被告は、昭和四六年三月五日、昭和四六年規約第二号果実飲料等の表示に関する公正競争規約の認定をした。そこで、原告らは、右認定に対し不当景品類及び不当表示防止法(以下景表法という。)一〇条六項の規定により不服を申し立てたところ、被告は別紙審決書写のとおり審決し、該審決は昭和四八年三月一四日原告らに送達された。

三、しかし、原告らは、右審決に不服であり、次の点について争うものである。

(一)  右審決は、本件認定によって具体的個別的な権利ないし法律上保護された利益が直接侵害されたか、少なくとも必然的に侵害されると主張しうる者でなければこれに対し不服申立ができないとし、原告らが右不服申立の資格を有しないとする。しかし、景表法が、一般消費者の利益を保護することを目的とし(同法一条)、被告によって認定される公正競争規約が一般消費者の利益を不当に害するおそれがないことを要求している(同法一〇条二項二号)ことに鑑み、同法一〇条六項にいう「不服のあるもの」には、被告の認定により利益を不当に害されるおそれのある一般消費者が含まれるものといわなければならない。そして、一般消費者とは、実在する個々の消費者及びこれを全体としてとらえた個々の消費者の集合を指し、原告らがこの意味で一般消費者であることには疑いがない。従つて、原告らが不服申立の資格を有することは明らかであり、そのことは、次に述べるような必要性からも基礎づけられる。

1 公正競争規約は、第一に、事業者が表示について守るべき具体的な基準を定め、一旦それが公正取引委員会によつて認定されると、実際上原則としてその基準がその業界の守るべき基準であるとされて、取きめに参加していない事業者も同程度の基準を守らなければ不当表示とされるという点において、消費者側からみるとその業界について不当表示が果しなく拡大する傾向に歯どめをかけ、少なくとも公正競争規約で定められた程度の表示は義務づけられるという点で、消費者を保護する制度であるという性格を有する。その反面、公正競争規約は、第二に、認定を受けたいわば最低限度の表示をしておきさえすれば、景表法上不当表示とされる心配がないという点で、本来期待される筈の消費者側からみて、より良い又はより正しい表示をおこなうことについての事業者間の競争を排除するカルテル(このようなカルテルであるからこそ、公正競争規約という事業者間の共同謀議ないし協定に基づいておこなわれる行為については、本来私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下独占禁止法という。)の適用が問題となるので、特にその適用を排除している。)として、消費者の犠牲において事業者を保護する制度であるという性格を有する。実際一旦公正競争規約が認定された後は、その対象商品の表示は、そこで定められた基準に固定してしまい、消費者の誤認を排除するという意味で、より良いないしはより正しい表示がなされることは、まずありえない。仮に公正競争規約がもつぱら消費者の利益を保護するためだけの制度であるとしても、その内容が現状より良いものであれば、ないよりましであるという考え方で認定すべきものではなく、その内容が法の予定する基準に達していなければならないことは当然である。もし法が不当表示とするような表示を許諾しているような公正競争規約が認定されたならば、消費者は商品を正しく特定させる権利を侵害されたものとして不服申立をすることが許されなければならない。また、公正競争規約が消費者にとつて身近な消費生活物資についての、また、消費者にとつて通常商品を知る唯一の手がかりとなる表示についての事業者間のカルテルであるということを考えるならば、それは本質的に消費者の利益を害するおそれのある制度であるから、独占禁止法上の不況カルテルの認可の場合と同様それが違法に認定された場合に、消費者に不服申立の資格を認める必要性は、極めて大きいといわなければならない。

2 そしてまた、規約の認定は、規約の作成過程の面からみても、一般消費者の権利に関係する。すなわち、公正競争規約を作ると作らないとは事業者の自由であり、どのような内容にするかも事業者の自由である。景表法の定める要件に適合しなければ認定されないだけである。消費者はもちろんのこと、公正取引委員会も、公正競争規約を作らせる権限もないし、その内容について命令する権限もない。しかも、その規約内容は、事業者の側から考えられた基準という性格を否定するわけにはいかず、消費者の権利をまもるというかたちで考えられるべき法的な基準とは、到底一致しえないということになる。このような規約が認定されると、消費者の権利が侵害され、その状態が定着することになる。また、公正競争規約が作られることになつても、消費者は、その作成過程に参加し、消費者の意見を反映させる法律上の権利がない。公正取引委員会は、消費者の意見をきくために公聴会を開くことすら法律上義務づけられていない。仮に事実上公聴会が開かれた場合でも、そこで述べられた消費者の意見を公正取引委員会がとり入れる義務があるわけではなく、正当な消費者の意見は過去においてしばしば無視されてきた。従つて、万一公正取引委員会が認定すべきでない規約を認定した場合には、消費者に不服申立を認めるという方法にとつてこれを是正する途を開いておく必要があるのである。

3 本来いかなる表示をなすべきか、またいかなる表示が不当表示になるかについては、公正取引委員会がみずから積極的に具体的な基準を設定すべきであるのに、同委員会は人員の不足を理由に、表示の基準の作成及びその遵守状況の監視を大幅に公正競争規約に頼つているのであり、そのことから認定にあたつても、規約の成立をめざすあまり、法の趣旨からはずれて事業者と妥協する危険がある。このような妥協が行き過ぎて違法な認定が行なわれた場合には、消費者に不服申立の途を開いておく必要がある。もし事業者が本当に法の趣旨に合致した公正競争規約を作ろうとするならば、消費者に不服申立の資格を認めても何の障害にもならない筈である。

4 もし公正取引委員会が違法に公正競争規約を認定した場合に、消費者に不服申立ての資格がないとすると、次に述べるように著るしく正義に反する結果となる。

公正競争規約が違法に認定されたとしても、認定が取り消されない限り、そのような公正競争規約及びそれに基づいてする事業者または事業者団体の行為に対しては、独占禁止法の違反事件の審判に関する規定は適用されないことになつているから(景表法一〇条五項)、その規約上許された行為については、それが客観的には不公正な取引方法に該当する場合であつても、審判手続が開始されることは、法律上ありえない。そして、独占禁止法二五五条に基づく損害賠償請求は、当該行為についての審決が確定した後でなければ、裁判上これを主張することができないとされているから(同法二六条)、結局、違法に認定された規約に基づく行為による損害については、同法上の損害賠償請求権を裁判上行使する途は、ありえないことになる。また、景表法は、売買契約についての基本法である民法上の売主について要求される契約の対象物を特定させる義務を当然の前提として、とくに対消費者取引における買主保護の目的で、取引を公正ならしめる種々の要素のひとつである表示について、より具体的に売主の義務を定めているものであり、さらに公正競争規約において定められる表示義務は、一般的抽象的なものではなく、各商品ごとに、使用すべき用語から活字の大きさにいたるまで個別的に公正取引委員会が検討し、認定したものであるから、それに適合する表示は、民法上違法性がないと考えるのが妥当である。きらに、公正取引委員会の認定を受けた規約どおりの表示をおこなつたということは、不法行為の成立要件である故意過失がないとされる場合が多いであろう。このように、違法に認定された規約に基づく行為による損害については、不法行為が成立するとされることは認定が取り消されたうえでない限り極めて困難である。従つて、もし消費者に不服申立の資格がないと、その消費者が違法に認定された規約に基づく行為によつて被つた損害について、裁判上の救済の途がなく、極めて正義に反する結果となる。更には、当該公正競争規約が違法なまま存続し、是正される機会がないという点でその対象商品の表示について、正義に反する結果となるばかりでなく、およそ消費者側に不利益な違法は、すべて是正される機会がなくなるから、景表法一〇条二項二号にいう「一般消費者……の利益を不当に害するおそれがないこと」という公正競争規約認定の要件は、有名無実となり、法による行政という近代法の根本原則は崩れ去ることになる。申請者および関連事業者に不服申立の資格があることによつては、消費者に不利益な違法を是正することは現実には期待できず、これをもつて消費者の不服申立資格を否定する根拠とはなしえないのである。

(二)  原告らは法律上保護された利益を侵害されたものである。

審決手続において、原告らは、自分自身の権利侵害ないし法律上保護された利益を侵害されたことを主張したが、審決は右の主張がなされなかつたかのように誤解している。一般消費者とは個々の消費者を意味し、原告らが一般消費者の中に入ることは前記のとおりである。原告らが本件認定処分の取消を求める場合、原告ら自身についての権利ないし利益を侵害されたことを必要とするが、原告らの侵害された権利ないし利益といつても、ひつきよう一般消費者として侵害された権利ないし利益と別物ではない。そこで、原告らがその権利を侵害された事実につき具体的に述べる。

1 原告奥むめおについての権利侵害

同原告については、本件規約の違法な認定によつて、次のような権利ないし法的に保護された利益侵害のおそれがある。

(1) 本件認定処分の結果、果実飲料について不当な表示がおこなわれると、同原告が消費者として有する商品を正しく特定させる権利がそこなわれ、その結果、同原告は、本来買いたいと思つていない商品を買わされるという不利益(誤認により正しい商品選択をおこなえないという不利益)を受ける。

(ⅰ) その結果、同原告はしばしば直接に財産上の損害を受けるであろう。すなわち、天然果汁より無果汁飲料の方が原価が安いことは言うまでもないことであるところ、本件規約においてこの区別をあいまいなものにした事業者側のねらいは、無果汁飲料を天然果汁と誤信させて天然果汁と同じ価格(ないしは、なるべくこれに近い価格)で消費者に買わせようということにあり、仮に本件規約作成の動機がそのような詐欺的なものでなかつたとしても、結果的にそうなる危険性がある。そうすると、違法な規約認定の結果生ずる誤信によつて、事業者は、当該無果汁飲料を天然果汁と誤信させることによつて付し得た価格と、無果汁飲料であることを明示した場合に販売しえた価格との差額に相当する額の不法な利益を得ることになり、同原告はこれに相当する財産上の損害を受けるおそれがある。

(ⅱ) 仮に無果汁飲料がそれ相当の価格で販売され、従つて、同原告がこれを不当に高く買わされたのではないという場合であつても、自分が買うつもりでなかつた商品を買わされ、その反面、自分が買うつもりであつた商品が買えないということになり、そのこと自体が不利益である。同原告について、このような利益侵害が発生するおそれがある。

(2) 本件認定処分の結果、果汁飲料について不当な表示がおこなわれ、自由かつ公正な競争が阻害されると、同原告はこの競争の停止による不利益、具体的には競争が維持されていたならば、例えば無果汁飲料は、無果汁飲料にふさわしい安い価格で、また、無果汁ということがはつきりわかるという、買手にとつてより良い取引条件で、購入することができたのに、その利益が奪われることになる。このような競争阻害によつて生ずる不利益は、同原告自身がよく注意してだまされないようにするということによつては排除することができないのであつて、他の多数の消費者が、不当な表示によつて誤認するという事態がなくなることによつてはじめて排除される。すなわち、自由かつ公正な競争の確保によつてはじめて排除されうるのである。言いかえれば、同原告自身がだまされると否とにかかわらず、同原告は、競争阻害の結果生ずる高い価格その他の不利益な取引条件で取引せざるをえないという不利益を受けるのである。

(3) 本件規約に定める表示は、これを理解するために異常な努力を要するという点において、同原告に直接の不利益を与える。すなわち、本件規約に定める表示方法は、通常の日本語の用語法とは甚しくかけ離れたものであつて、よりわかりやすく通常妥当と認められる表示にくらべて、これを理解するのに不当に多くの努力を要するから、仮に同原告が結局はこの表示の意味するところを理解するに至つたとしても、それに要する(表示が適切であつたならば本来不必要であつた筈の)余分な労力と時間の消費という不利益を受ける。更に、同原告自身の理解に要する手間のみならず、例えば、同原告が自己のために果実飲料を買いに行つてもらう家族らに(本来必要ない筈の)余分の説明をしなければならないという点においても、同原告に同様の不利益が生ずる。

(4) 無果汁飲料は天然果汁に比べて栄養価の点で劣り、また前者の糖分が砂糖であるのに対し、後者は通常果糖であるという差異があるので、その選択を誤れば、同原告について栄養障害、糖代謝障害の発生、悪化等、健康被害が発生するおそれがある。

2 原告主婦連についての権利侵害

(1) 同原告は、それ自身日常消費のために果実飲料を購入する消費者であつて、商品を正しく特定させる権利を有するものである。そして、景表法が保護している取引における買主は、家庭の主婦等の個人であることが多いであろうが、もとよりそれに限定されるものではなく、消費者として法人や団体が商品を購入する際の不当表示をも規制しているのであるから、本件規約の違法な認定によつて、消費者である同原告自身について上記の諸利益が侵害されるおそれがある。ちなみに、同原告の代表者が仮に本件規約の違法性について承知しており、従つて普通の消費者よりだまされにくいとしても、同原告について権利侵害のおそれが消滅するわけではない。なぜなら、法律の専門家であつても詐欺にかかることがあるのと同様に、買主に知識があつても売主の側でぎまん的表示をおこなう以上、誤認してしまう危険はなくならないし、また、現実に果実飲料を買いに行く者、従つて誤認の危険にさらされる者は、同原告の代表者ではなく、これに使用される者であつて、これらの者については、普通の消費者に期待しうる以上の専門知識を期待できないからである。

(2) 仮に原告主婦連自身が消費者でないとしても、同原告の会員は、消費者である個人及び消費者である個人を会員とする団体から成つており、これら個人である消費者について権利侵害のおそれがあることは、前記のとおりである。そして、同原告はその会員を含めて消費者の利益を擁護することを目的とする団体であるから、同原告の会員が消費者しての権利を侵害されることは、まさに同原告が達成しようとしている目的が阻害されることであつて、同原告自体にとつての損害である。同原告は、その会員についての権利侵害によつて、この意味において、同原告自体として損害を被るおそれがある。

(3) 更に仮に原告主婦連自身が消費者でなく、かつ、同原告の会員の権利が侵害されても同原告自身はなんら利益を侵害されるものではないとしても、ある団体の構成員が権利侵害等を受けた場合に、その団体は当該構成員を代表して当該処分の適法性を争う適格を有するものと解すべきであるから、同原告はこの意味において不服申立の資格がある。

(4) 更に仮に原告主婦連自身にとつて利益侵害がなく、また同原告の構成員全員についての権利侵害のおそれに基づく前記(3)の考え方が採用できないと仮定しても、前記のとおり、本件規約の違法な認定によつてひろくの個々の消費者の権利ないし利益侵害のおそれがあるところ、同原告は、その会員のみならずひろく消費者の利益を擁護することを目的とし、また実際二五年余にわたつてその目的のために活動をおこなつてきたものであるから、当該認定処分を争うにつきもつとも適した利益状態にある者というべきであり、このような一種の訴訟信託の考え方に基づいて、同原告には不服申立の資格があるというべきである。行政庁に対する損害賠償請求の訴や課税処分取消請求の訴等と異なり、申立が認められても金銭の支払を受けられるわけでもなく、また処分の取消によつて個々の申立人が得る財産上の利益は、わずかなものである本件のような不服申立については、権利侵害を受けるおそれのある本人である個々の消費者が不服申立をすることは現実に期待し難いことであるから、処分の適法性を保障するためばかりでなく、多数の個々の消費者の権利侵害を現実に裁判上救済するためにも、上記のような考え方を採用する必要性は、きわめて大きいといわなければならない。

(三)  不況カルテルの認可に対して、少なくともその共同行為の対象商品が消費財である場合には、対象商品が消費財であることと、自己が消費者であることさえ主張すれば、それ以上の具体的、個別的、直接的、必然的な利益侵害について述べなくても、一般消費者は当然に利害関係があり、公正取引委員会に対し不服申立ないし異議の申立ができる。このことからみて、不況カルテルの場合よりもさらに一層消費者の利害にかかわりの深い公正競争規約の認定に対して、一般消費者が不服申立の資格を有することは明らかである。

(四)  被告は、内田MFC研究所に対する昭和四三年(判)第一号事件につき被告が昭和四五年二月一七日にした審決において、不服申立人が景表法一〇条二項二号の関連事業者であるかどうかはさておくとして、関連事業者にあたるかどうかはつきりしない不服申立人にまで緩やかに不服申立の資格を認めている。同事件は将来関連事業者になるかも知れない者の申し立てたものであるのに対し、本件は消費者及び消費者団体の申し立てたものであるから、両者が事案を異にすることはいうまでもない。しかし、景表法一〇条二項二号に列挙された一般消費者と関連事業者の不服申立の資格について、両者を差別的に取り扱うべき合理的な理由はないにも拘わらず、本件については、被告は不服申立の資格について厳しく解し、原告らの不服申立の資格を否定した。このことは、法の適用における不合理な差別であり、法の下の平等を定めた憲法一四条に違反する。

(五)  審決手続における不服審査の対象及び利益は、抗告訴訟のそれと必ずしも同一である必要はなく、審決手続における不服申立の資格の範囲と行政訴訟における原告適格の範囲とは同一に解すべきではない。本件審決が原告らの不服申立の資格を判断するにあたつて行政事件訴訟法九条をそのまま基準としたことは誤りである。仮に審決の立場に立つて行政事件訴訟法九条をそのまま適用して不服申立の資格を定めることとしてみても、本件原告らは、すでに述べたように、原告ら自身消費者としての基本的な権利ないし法的に保護された利益を侵害されるおそれがあるから、同条にいう「法律上の利益を有する者」にあたる。また、実際上景表法一〇条六項に基づいて不服申立をなしうる者の中に消費者または消費者団体が含まれると解しても、行政実務上もなんらの不都合を生じない。以上の点からも、行政事件訴訟法九条にいう「法律上の利益」を原告らに認めなかつた審決は違法である。

(六)  本件の審決にはその審判手続において手続違背がある。

1 本件審判手続において審決案が原告らに送達されず、そのため異議の申立をする機会を奪われた。このことは適正手続条項に違背し、違法である。仮に審決案を不服申立人に送達しないことが直ちに違法でないとしても、公正取引委員会規則において、独占禁止法違反事件の審決案につき、これを被審人に送達して異議申立の機会を保障している以上、景表法一〇条六項に基づく審判手続の場合だけ差別してその機会を与えないことは違法である。なんとなれば、独占禁止法違反事件の場合でも、景表法一〇条六項に基づく審判の場合でも、間接審理に内在する危険を防止するため審決案を不服申立人に送達して異議申立の機会を与える必要があるという点においては、同じである。そして更に、景表法に基づいて排除命令を受けた者がこれを不服として同法八条一項に基づいて開始される審判の場合には審決案が不服申立人に送達され、不服申立人が異議を申し立てる機会を与えることと対比しても均衡を失するからである。従つて、本件審判手続において、原告らが審決案に対し異議を述べる機会を奪われたことは、著しく不公正であり、憲法三一条にも違反する。このような重大な手続上の違法は、当然に審決取消の理由となる。仮にその違法が審決に影響を及ぼした場合に限つて審決取消の理由となると考えるとしても、本件の場合は、本件審決案及び審決等の内容が原告らの主張を全く誤つて要約していること等からみて、右の違法に影響を及ぼしたことが明らかである。

2 本件審決における原告らの主張の要約のうち、原告ら自身の利益侵害の主張がないとの部分は全くの誤りであるが、仮に百歩を譲り審判官にとつては原告らの主張が原告ら自身の利益侵害を主張しているのかどうか明らかでないと受けとられたとしても、この点が本件審判における最大の争点であつたのであるから、審判官としては、原告らの主張の趣旨を釈明すべきであつたのであり、右審判には釈明権の行使を怠つた違法がある。

(七)  本件の審決には判断遺脱ないし理由不備の違法がある。

1 原告らは、本件の審判手続において自分自身の権利ないし法的に保護された利益侵害の主張をしたのに、審決においては、この主張について全く判断がなされていない。

2 本件の審決は、その事実摘示の項において、原告らは、「景品表示法は、直接消費者を相手とする取引方法が問題とされていることから、同法は個々の消費者の利益の保護を第一義的に考え、それを通じて個々の消費者の集合である一般消費者の利益を実現することを目的とするものである。従つて、一般消費者の権利又は法律上の利益と個々の消費者の権利又は法律上の利益とを切り離し、相対立する概念としてとり上げることは、同法の趣旨を著しくねぢまげたとらえ方であり、誤りである。」「公正競争規約が違法に認定されれば、個々の消費者ないし一般消費者の利益は、不当に害されるおそれがあり、このことから、不服申立人らに不服申立ての資格があることは明らかである。」と主張したと記載しているのに、その理由の項において「本件不服申立ての理由の趣旨は、果汁規約が景表法一〇条二項の規定に違反して認定されたため、一般消費者の利益を不当に害するおそれがあるというものであつて、不服申立人ら自身の具体的、個別的な権利ないしは法律上の利益が必然的に侵害されるというものではなく」と判断しているのは、右事実摘示における要約と矛盾し、判断遺脱ないし理由不備である。

四  被告の主張に対する反論

(一)  昭和四九年一月一一日果実飲料等の表示に関する公正競争規約の一部変更の認定が告示されたが、それによると、同規約七条五号の次に、公正取引協議会が行なう事業として、「一般消費者からの苦情処理に関すること。」が追加された。この改正規定からみて、同規約の一般消費者には個々の消費者も含まれることは明らかであるから、本件認定処分に対する関係においても、一般消費者は個々の消費者を含む意味に解すべきである。

(二)  行政庁の違法ではないが不当な処分に対しても不服申立の途が開かれているのであるから、行政不服審査手続における不服申立資格の範囲は、行政訴訟における原告適格の範囲よりも広いことが明らかである。そして、このことは、景表法における不服申立資格についても当然あてはまる。

(三)  被告は、審決案の送達及びこれについての異議申立の規定を設けなくとも違法ではないと主張するが、公正競争規約の認定申請をした者が自己にあててなされた処分に対して不服申立をした場合については、とも角、原告らにとつては、不服申立についての審決が原告らに対してなされた最初の行政処分であり、それ以前にいかなる行政処分も受けたことはないのであるから、独占禁止法上の被審人と同じ立場におかれているのであり、審決案の送達を受け、それに対し異議を申し立てる機会を与えられることが必要である。

以上に述べたところから明らかなように、本件審決は違法であるから取り消されるべきである。

第二、被告の答弁

被告代理人は、主文第一、二項と同旨の判決を求め、答弁として次のとおり陳述した。

一  請求原因一のうち、原告主婦連がその主張のとおりの団体であることは認める。原告主婦連自身、また、その会員である個人及び会員団体の構成員ならびに原告奥むめおが景表法にいう一般消費者であることは争う。

二  請求原因二のうち、被告が原告ら主張の日に原告ら主張のとおりの公正競争規約の認定をしたこと、原告らが右認定に対し不服を申し立てたこと、及び被告が原告ら主張のとおり、本件審決をしたことはいずれも認める。

三  請求原因三(一)のうち本件審決が原告ら主張のとおりの見解を示していることは認める。しかし、原告らの法律上の見解については争う。

独占禁止法一条は、公正かつ自由な競争を通じ一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする旨を規定していることから、同法の保護法益が公共の利益であること、従つて、右の一般消費者は個々の消費者ではなく、国民大衆を意味するものであることは明らかであり、同法の特例法として制定された景表法においても、その一条は、不当な顧客誘引行為を禁止することにより一般消費者の利益を保護することを目的として掲げている。従つて、景表法にいう一般消費者も右と同様の意味に解すべきであり、個々の消費者が右の一般消費者にあたるわけではなく、個々の消費者である原告らに不服申立資格が認められるわけではない。景表法一〇条二項二号の、「一般消費者及び関連事業者の利益を不当に害するおそれがないこと」とは、公正競争規約の認定の要件を定めたものであつて、それが、ただちに、一般消費者に対し不服申立の資格を付与したものと解すべきではない。従つて、同条六項の「不服があるもの」には、当然に、一般消費者が含まれると解することもできない。

四  請求原因三(二)の原告らの法律上の見解については争う。

一般消費者の利益とは、抽象的平均的全体的な消費者の利益をいい、具体的個別的な利益をいうものではない。従つて、原告らが審判手続において一般消費者の利益侵害のおそれがあるからその一員としての不服申立人らの利益侵害のおそれがあると主張しても、それは単に抽象的平均的全体的な消費者の利益侵害のおそれを主張したにすぎず、未だ原告ら自身の具体的個別的な利益侵害の必然性を主張したとは到底いい難く、このような主張をしたにすぎない原告らに不服申立資格を認めることは、法に特別の規定がないのに民衆争訟を認めるに等しい。規約認定が違法であり、その結果不当表示がなされるおそれがあり、その不当表示により個々の消費者である原告らが被るであろう不利益は、本件規約認定からみれば、あくまでも間接的反射的に生ずる事実上の不利益にすぎないか、その侵害される利益は景表法上の保護法益にあたらないか、本件公正競争規約に基づいてなされる表示によつては未だ原告らの生命身体の危険を生ずるおそれがあることについて具体的個別的主張があつたものとはいえないかのいずれかである。なお、権利ないしは法律上保護された利益の侵害は、それが金銭的賠償をもつて回復し得ない生命身体等に対する場合は蓋然性をもつて足りるが、金銭的賠償をもつて回復しうる経済上の保護利益については、単に発生する合理的なおそれの程度では、審判手続によつて回復されるべき権利保護要件を欠くから、利益侵害は必然性のあることを要するものと解する。

五  請求原因三(三)の原告らの法律上の見解については争う。不況カルテルの認可につき一般消費者に当然異議申立資格があるとの主張は独自の見解である。

六  請求原因三(四)のうち被告が内田MFC研究所に対する件につき本案について審理判断したことは認める。しかし、その余の原告らの主張については争う。内田MFC研究所に対する件の審決は、明らかに不服申立について実質的な理由がないから却下したまでであり、原告らの主張するように不服申立資格にふれたものではない。従つて、憲法一四条の問題とは関係がない。

七  請求原因三(五)の原告らの法律上の見解については争う。現行行政不服審査制度が従来ややもすれば軽く扱われていた国民の権利利益の救済に重点を置いた制度として樹立されたという行政不服審査法の制定の経緯に照らしみると、同法一条一項の規定は国民の権利利益の救済を図ることと行政の適正な運営を確保することとの二つの面が相即不離のものであつていずれを欠くこともできないとされているが、どちらかといえば、同法は国民の権利救済の方にその重点を置くものであるという意味を表わすよう配置されていること、司法救済に関する裁判所法三条一項は「裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。」と規定していること、個人の利益の救済は究極において司法救済の途が講じられていることによりはじめてその利益が確保されるものであること等を総合勘案すれば、不服申立の対象となり得る行政庁の処分は、行政事件訴訟法九条所定の行政処分とその範囲が同一であると解するのが相当である。

八  請求原因三(六)1の原告らの法律上の見解については争う。審決案の送達及びこれに対する異議申立について規定を設けたのは、原告らの主張するように被審人に異議申立を認めることにより審判官による審判手続の結果が委員会に対し正しく反映されない危険を防止するためではないから、景表法の公正競争規約認定の不服申立手続につき規則に審決案の送達及びこれについての異議申立の規定を設けなかつたとしても何ら違法とはいえない。仮に公正競争規約の認定につき審決案不送達により原告らに異議申立の機会を与えなかつたことが違法であるとしても、本件の唯一の争点である原告らが審判手続において具体的個別的な権利ないし法律上保護された利益侵害の必然性があることを主張しなかつたことには変りがないから、手続上の違法が審決に影響を及ぼしたことにはならない。

九  請求原因三(六)2の主張は争う。

一〇  請求原因三(七)の主張は争う。これらの原告らの主張は前記四において述べたところから理由のないことは明らかである。これを要するに、本件審決手続において原告らは抽象的一般的に消費者の権利とその性質を述べたにすぎず、本件認定により原告らの具体的個別的な法律上保護された利益が侵害されたと主張したものではない。

理由

一原告主婦連が肩書地に事務所をもち、全国各地の消費者団体及び個人を会員とし、消費者の利益の擁護等を主たる目的とする法人格のない代表者の定めのある社団であること、被告は、昭和四六年三月五日、昭和四六年規約第二号果実飲料等の表示に関する公正競争規約の認定をし、原告らは右認定に対し景表法一〇条六項の規定により不服を申し立てたので、被告は別紙審決書写のとおり審決したことは、いずれも当事者間に争いがない。そして、原告らは、右審決の取消を求めるものであるところ、原告らは右審決の名宛人(不服申立人)であるから、原告らが本訴につき当事者適格を有することは明らかである。

二右審決は、原告ら(不服申立人ら)は被告のした公正競争規約の認定に対し不服申立資格を欠くとして不服申立を却下したものであり、原告らはこの点について争うので、以下原告らに不服申立資格があるかにつき検討する。

(一)  本件規約の認定は、当該規約にかかわる事業者らに対し有効な拘束的一般的取りきめを定立するものであるから、一の一般処分的な性質を有するものであるといえる。しかし、一般処分でも、行政庁の優越的な意思の発動を内包しかつ対外的に影響力をもつ完結的な表示行為であれば、特定人の特定の権利を直接的に侵害し又はこれに具体的な義務を課するいわゆる固有の意味の行政処分でなくとも、これに対し不服申立を許し、また取消訴訟の対象としうるものと考えるのが相当である。本件規約の認定はこのような意味での一般処分として不服申立の対象となるものである。現に景表法一〇条六項は右認定について不服がある者は公正取引委員会に対し不服申立ができると規定しているのである。ただ、同条項は不服があるものは不服の申立ができると規定しているにとどまるので、その字句からは、何人でも不服があればすべてこの不服申立ができるように解釈することも可能のように見えないでもない。

しかし、同法一〇条六項の不服申立は、本質的には行政不服申立の性質を有するものであるところ、一般に行政不服申立は、特段の定めのある場合を除き、違法ないし不当な行政処分を取り消すことにより、その行政処分によつて権利ないし法律上保護された利益の侵害を受けた私人等特定の権利主体を救済するためのもので、それによつて適正な行政が確保されるという効果をもつものではあるけれども、私人等の救済とは関係なしに行政の適正な運営の確保自体を目的とするものではない。

ただ、いわゆる民衆争訟は、法律に認められた特別の場合国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める申立で、たとえば、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するものであるから、その申立の要件として権利保護の利益の存在を必要としないと解されている。しかし、法規の適正な適用において国民の一人としての個人が他の人々と共通してもつ利益は、個人的利益ではなく、一般的利益であつて、このような利益は本来私人等特定の権利主体の権利・利益を個別に保護するためにある争訟制度によつて保護されるべき利益ではないというべきであるから、このような利益の擁護のため不服申立を許すことは、結局民衆争訟を認めると同一に帰し、そのためにはその旨の特別の規定を必要とし、そのような明文の規定のある場合に限り、不服申立が許されるといわなけばならない。しからば、同法一〇条六項の規定をこのような民衆争訟を定めたものと解することができるであろうか。この規定をもつて個々の消費者として有する具体的権利義務の存否について争うのでなく、公正取引委員会のした公正競争規約の認定処分そのものを違法であるとして、これに対し行政不服申立を認めた規定と解することは文言の体裁上困難である。更にもしそのような行政不服申立を認めた規定であるとすれば、通常その不服申立についてした行政庁の決定に対し、裁判所に出訴できる旨の規定が設けられるのが例である(たとえば、公職選挙法に基づく選挙争訟につき、同法二〇二条、二〇三条、地方自治法に基づく住民争訟につき同法二四二条、二四二条の二など)。しかるに、景表法はこのような規定を欠いており、同法一一条二項もその旨の規定と解することはできないから、この点からも同法一〇条六項をもつて民衆争訟を認めた規定と解することはできないといわなければならない。その他景表法には民衆争訟を認めた規定は見当らない。

従つて、前記認定に対し不服申立の資格を有するのは、右認定によつて自己の法的に保護された利益を害された者又は必然的にこれを害されるおそれのある者でなければならないことは明らかである。

(二)  本件規約の認定は、社団法人日本果汁協会ほか三名の申請についてなされたものであり、原告らが右認定の名宛人でないことは、原告らの主張自体から明らかであるが、前記のような認定の性質・効力に鑑み、右認定によつて権利ないし法律上保護された利益を侵害された者は、認定の名宛人でなくとも、右認定に対し不服申立をすることが許されると解すべきである。それでは、果して原告らは、右認定によつていかなる権利ないし法律上保護された利益を侵害されあるいは侵害されるおそれがあるであろうか。これは認定に対し原告らに不服申立資格を認めるべきかの問題と表裏の関係に立つのである。

1  この点につき、原告らは、景表法は一般消費者の利益を保護し、被告によつて認定された公正競争規約により一般消費者の利益が不当に害されないよう要求しているのであるから、被告の認定した規約の内容が一般消費者の利益を不当に害するおそれのあるものであるときは、個々の消費者が一般消費者として右認定に対して争うことができ、一般消費者の一人である原告らはその趣旨において右認定によつて利益を害されるものとして不服申立資格を有すると主張する。

景表法一〇条六項が「公正取引委員会の処分について不服があるものは……公正取引委員会に対し、不服の申立てをすることができる。」と規定したのは、同条二項二号において認定の要件として一般消費者の利益を不当に害するおそれがないことを要求していることに対応するものであることは、所論のとおりである。しかし、ここにいう一般消費者の利益とは、国民の消費者としての面に着目して消費者である限り何人でももつ利益をいうものであり、消費者たる各人が他の消費者と全く同様に共通して有する利益であつて、その意味でこれを他から区別して特定の個人が特別に有する利益ということはできず、究極において公益ないし国民一般の利益というに帰する。なる程、果汁等飲料の消費者は、果汁等を飲用するという点において、その他の飲料の消費者と区別された特定の範囲の者であるということはできようが、しかし、右の者らも結局は果汁等飲料の消費者にすぎないのであるから、果汁等飲料の消費者を右のように区別してみても、そのことによつて当然にはこれらの者を他から区別された特定の権利者とすることにはならず、所詮広狭の差にすぎない。このことは、果汁等飲料が普及し、その飲用者が多数であるという現下公知の事実に照らして考えるといよいよそうである。従つて、この点に関する原告らの前記主張は理由がない。

2  更に、原告らは、その主張する如き諸種の事情(請求原因三(一)1ないじ4)から原告ら一般消費者に本件規約認定に対し不服申立資格を認める必要があると主張する。

思うに、景表法は独占禁止法の特別法であるが、独占禁止法は私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、それによつて公正かつ自由な競争を促進することを直接の目的とするものであり、この目的を達成することによつて一般消費者の利益はおのずから確保されるものとの建前に立つものであり、景表法はこの不公正な取引方法の一つであるいわゆる顧客の不当誘引のうち不当景品類の提供及び不当な表示を定型化してこれを防止し、それによつて公正な競争を確保することを直接の目的とし、その目的を達成することによつて一般消費者の利益は当然保護されるものとするのであつて、その点において、両者の建前は固より同一である。従つてここでは一般消費者の保護は右の直接の目的をとおして得られる間接の目的たる地位に止まるものであることは否定しえないところである。そしてこの目的の達成のためには、先ずもつて公正取引委員会が、その法によつて付託されたところに基づき正当にその権限を行使すべきものとしているのであつて、その権限の行使は直接事業者に対する所定の事項の禁止ないし排除に向けられるのであり、それによつて事業者が、それがなければ本来自由なるべき事業活動を規制され、その有する権利、利益が害される場合において、その者に不服申立による救済を保障しているというのが、その基本的構造である。公正取引委員会の公正競争規約の認定は、一面において事業者の事業活動を制約するとともに、他面において認定された規約の限度においては不公正な取正な取引方法たる顧客の不当誘引にならないとする効果を有することは所論のとおりであるが、右認定が正当になされなかつたとしても、一般消費者としては、正当な認定がなされれば得られるべき利益を得られないというだけで、その本来有した地位に消長はなく、すでに有する利益を害されるものとすることはできないのである。その意味で一般消費者に不服申立を認めないとしても、著しく正義に反すると非難することはできない。たしかに原告ら主張のような必要からすれば一般消費者に不服申立の資格を認めるのが望ましいといいうるかも知れない。しかし、その必要があるからといつて、前記のような制度の本質を超えて直ちに一般消費者に不服申立を認めることはできないのであり、これを認めるためには明文の規定を要することは前記のとおりであり、所詮は他の諸多の要因を比較考量して決せられるべき立法政策の問題に帰するといわざるをえない。従つて原告らのこの主張も結局理由がないといわなければならない。

(三)  原告らは本件認定によつて具体的にその権利を侵害されるおそれがあると主張するので、原告らのそれぞれの主張につき判断する。

1  原告奥むめおは、本件認定により、商品を正しく特定させる権利、よりよい取引条件で果汁を講入する利益、果汁の内容について容易に理解することができる利益ないし表示により内容を知つて果汁を選択する権利を侵害されるおそれがあると主張する。

しかし、不服申立人がその権利ないし法律上保護された利益を侵害されたとして行政処分に対し不服申立のできるためには、右の権利ないし利益は具体的にしてかつ個人的なものであることを必要とする。原告奥むめおの主張する権利ないし利益なるものは、すべての消費者一般に通ずる権利ないし利益であつて、他から区別されるべき特定の個人的利益とはいえないものであり、いわば保護されるべき地位において有する事実上の利益という程のことに帰し、認定によつてもたらされる公正な競争を通して期待される消費者の事実上の利益であつて、結局一の反射的利益にすぎないと解せざえるをえない。

2  原告主婦連は、商品を正しく特定させる権利ないし会員がもつ前記の権利を侵害されるおそれがあり、会員の権利侵害につき、会員を代表して不服申立をする資格があるし、そうでないとしても、その従来の活動ないし会の目的から本件認定処分を争うにつき不服申立資格を認めるべきであると主張する。

しかし、同原告の主張する商品を正しく特定させる権利及び原告主婦連の会員の権利ないし利益の認め難いことについては原告奥むめおの主張について右に述べたとおりである。従つて、原告主婦連についても、具体的かつ個人的権利ないし利益の侵害ないし侵害のおそれにつき主張がないことに帰する。

原告主婦連の会の目的ないし活動からみて本件認定を争うにつき不服申立資格を認めるべきであるとの主張は、同原告が具体的な個人的権利ないし利益を前提とするものであるとすれば、その侵害されるおそれのある権利ないし利益は具体的でかつ個人的なものであるといいえないこと前記のとおりであるから、この主張は理由がない。また、右の主張が具体的な個人的権利ないし利益の侵害の有無にかかわらず同原告が不服申立資格を認められるべきであるという趣旨であるとすれば、結局同原告に対し本件認定に対し民衆争訟を認めるべきであるという主張に帰するが、これを認めるべき根拠規定は存在しないし、また一のいわゆる代表争訟をいうのであれば、実定法上その制度のない今日その理由のないことは明らかである。

以上に説示したところから、原告らが権利ないし利益の侵害のおそれ等があるとして不服申立資格を有するとする主張のいずれも理由のないことは明らかである。

(四)  原告らは、不況カルテルの認可の場合には、その共同行為の対象商品が消費財である限り、一般消費者は当然に右認可に対し不服申立ができるのであるから、本件認定に対しても一般消費者の不服申立資格を認めるべきであると主張する。

なるほど、前記(二)2で述べた公正競争規約の認定が事業者に対してもつ一面の効果からすれば、認定は不況カルテルの認可と類似するものがあるというべきであろう。しかし、不況カルテルの認可の場合において、一般消費者が一般消費者であるというだけでその認可を争いうるか否かは、それ自体問題である。この場合、当該不況カルテルの認可によつてその個別の権利・利益を害されるべき必然の関係にある者については格別、単に一般消費者として誰でも有する権利・利益を有するにすぎないとすれば、この種の地位にある者にはこれを争うべき資格を否定せざるをえないことは、カルテルの認可を争うことが本質上一の行政不服であり、行政不服が何人に許されるかについて述べた前記のところを考えればおのずから明らかであるからである。従つて、本件認定につき不況カルテルと同様に扱わなければならないとしても、単なる一般消費者は本件認定に対して不服申立資格を有することにはならない。

(五)  原告らは、内田MFC研究所に対する件の審決においては、公正取引委員会は不服申立資格につき寛大に取り扱い、実体につき判断しているのであるから、本件についても原告らに不服申立資格を認めるべきであると主張する。

しかし、行政庁は不服申立資格のない者のした不服申立についても、その裁量によりこれを採りあげて実体につき判断することも許されるであろう。しかし、それはその義務ではないから、これを採りあげないとしても、そのことをもつて当然に違法ということはできない。従つて、被告が、他の事件を採りあげて実体判断をしたのに、本件においてはこのような実体判断をしないからといつて、それが憲法一四条違反の問題にならないことはいうまでもない。

(六)  原告らは、本件審判手続において審決案が原告らに送達されず、そのため異議の申立をする機会を奪われたことは、適正手続条項に違背する。仮に右送達のないことが直ちに違法でないとしても、本件審判において独占禁止法違反事件の審判の場合と異なる取扱いをし右送達をしないことは結局違法であると主張する。

しかし、本件審判手続においては、審決前に審決案を申立人に送達しなければならない旨の規定はなく、本件審決においては、審決によりはじめてそれが不利益を設定するものでない点においても、独占禁止法違反の審判事件と性質を異にするから、独占禁止法違反の審判事件の場合に審決案の送達の規定があるからといつて、本件審判手続につきそれと同様の取扱いをしなければならないものではない。従つて、本件審決案の送達がなされなかつたことは、本件審決を違法とするものではない。

(七)  原告らは、本件審決に釈明権不行使・判断遺脱・理由不備の違法があると主張するが、その主張のような事実があるとしても、これまでに説示したところからそれが審決に影響を及ぼすものではないことはおのずから明らかであるから、これをもつて審決取消の理由とすることはできない。

三以上により原告らの本訴請求の理由のないことは明らかであるから、これを棄却することとする。よつて、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条、九三条を適用し、主文のとおり判決する。

(市川四郎 浅沼武 真船孝允 鈴木重信 川上泉)

昭和四十六年(判)第五号

審決

不服申立人 主婦連合会

右代表者会長 奥むめお

不服申立人 奥むめお

右二名代理人弁護士 穂積忠夫

同代理人 高田ユリ

外四名

参加人 果実飲料公正取引許協議会

右代表者会長 三堀参郎

右代理人弁護士 浦上一郎

公正取引委員会は、右不服申立人らから、昭和四十六年四月三日不当景品類及び不当表示防止法(昭和三十七年法律第百三十四号。以下「景品表示法」という。)第十条第六項の規定に基づき、不服申立てがあつたので、審判手続を経て、次のとおり審決する。

主文

本件不服申立てを却下する。

事実

一 不服申立人らは、公正取引委員会が昭和四十六年三月五日社団法人日本果汁協会ほか三名の申請についてなした果実飲料等の表示に関する公正競争規約(以下「果汁規約」という。)の認定は、景品表示法第二項第一号ないし第三号の要件に該当せず、違法であるから、公正取引委員会は、右認定を取消すべきであると主張し、その理由として、

(第一点) 果実飲料の表示について、果汁規約第三条(1)では、果汁含有率一〇%以上のものは一〇%きざみに、五%以上一〇%未満のものは果汁一〇%未満と表示することとしているが、果汁含有率五%未満のものまたは果汁を含まないものにあつては、その旨の表示にかえ、「合成着色飲料」、「香料使用」等とのみ表示すればよいことになつている。このような表示は、一般消費者に果汁を含有していない旨を誤りなく伝えるものではないことなどから、適正な表示ではない。

(第二点) 果汁含有率の測定について、果汁規約第三条第一項後段に定める測定方法では、果汁に含まれるアミノ酸が天然のものであるか、合成のものであるかの区別がつけられない。かりに、右の測定方法をとるとしてもその採用が義務づけられていない。

(第三点) 印刷びんにおける表示について、果汁規約第三条(2)但書では、主原料(たとえば水、みかん)のうち果実の種類名以外のもの(たとえば水)の表示を省略しうることになつている。

(第四点) 「ジュース」という言葉を含む名称の使用について、果汁規約第五条第二項および第三項においては、「ジュース」および「ジュースドリンク」のみの名称の使用を規制しているが、「ジュース」ということばを含むその他の名称の使用(たとえば「ソフトジュース」など)が野放しになつている。

(第五点) 事業者の手持ち包装資材等については、果汁規約附則2によつて、必要な表示義務の履行が、事業者の定める時期まで無期限に延ばされる可能性があり、また使用中の印刷びんについては、同附則3によつて制限されるべき「ジュース」という名称が、びんの寿命のつきるまで無期限に使用されることになつている。

と述べ、審判立会官が不服申立人らには不服申立ての資格(すなわち法律上の利益、以下同様とする。)がないとの抗弁に対しては、

(1) 景品表示法は、直接消費者を相手とする取引方法が問題とされていることから、同法は個々の消費者の利益の保護を第一義的に考え、それを通じて、個々の消費者の集合である一般消費者の利益を実現することを目的とするものである。したがつて、一般消費者の権利または法律上の利益と個々の消費者の権利または法律上の利益とを切り離し、相対立する概念としてとり上げることは、同法の趣旨を著しくねぢまげたとらえ方であり、誤りである。

ところで、同法第十条第二項第二号は、公正競争規約の認定につき、「一般消費者および関連事業者の利益を不当に害するおそれがないこと」と規定しているが、その趣旨は、公正競争規約が事業者によつて作られるものであることから、ややもすれば事業者側に都合によいものとなり、一般消費者持の利益が不当に害される可能性があることを考慮してのものである。したがつて、公正競争規約が違法に認定されれば、個々の消費者ないし一般消費者ないし一般消費者の利益は、不当に害されるおそれがあり、このことから、不服申立人らに不服申立ての資格があることは明らかである。

なお、不服申立てを行なうに当つては、現実に財産上の損害が発生していることは必要なく、将来における利益侵害の可能性で足りることは、右第十条第二項第二号が「利益を不当に害するおそれのないこと」と規定し、侵害のあつたことを要件としていないことおよび不服申立ての期間が処分の告示の日から三十日以内であるのに対し、果汁規約の効力発生が認定の日から六ケ月先であることに徴して、明らかである。

もし、違法な公正競争規約の認定に対し、個々の消費者に不服申立ての資格がないとし、一方、個々の関連事業者にはその資格がありとすると、景品表示法第十条第二項第二号の一般消費者と関連事業者とを不当に差別することとなる。

(二) 公正取引委員会は、本件と類似の「内田MFC研究所に対する事件」(昭和四十三年(判)第一号)の審決において、本件不服申立人らと同じような立場にある内田MFC研究所に不服申立資格を認めている。その先例からしても、不服申立人らに不服申立資格を認めるべきである。

(三) 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号。以下「独占禁止法」という。)第二十四条の三に規定する不況に対処するための共同行為(以下「不況カルテル」という。)に関する認可と公正競争規約の認定とは、きわめて類似性があるが、不況カルテルの認可によつて一般消費者が不利益をこうむるときは、不服申立ての資格のあることは確定した通説である。しかも、この場合よりもさらに一層一般消費者の利益にかかわりの深い本件果汁規約の認定について、不服申立人らが不服申立資格を有することは、明らかである。

(四) かりに、一般消費者を個々の消費者の集合ではなく、消費者の集団と解するとしても、違法な行政処分によつて集団利益が侵害された場合に、その集団の一員であり、その集団の利益を代表するものに、原告適格がありとするのが、最近の行政事件訴訟の判例、学説の認めるところであるから、この点よりしても、右訴訟と同様の性格を有する行政不服申立ての手続である本件において、不服申立人らにその資格が認められるべきである。

(五) かりに、裁判所が原告適格について、その個人の主張利益の性質のみを判定の決め手とする狭い見解をとつているとしても、不服申立手続は、行政事件訴訟とは異なるから、公正取引委員会の不服申立手続においては、適正な行政を通じて消費者を保護するという任務から不服申立ての資格を広く認めるということが、正しい行政の運用である。

なお、個々の消費者について不服申立資格を認めても、行政実務上なんらの支障もない。

と答弁し、証拠として果第一号証から果第十六号証を提出し、参考人三堀参郎、同中村雄一、同和田正江、同正田彬、同高田ユリ、同竹下隆三の取調べを求めた。

二 審判立会官は、主文同旨の審決を求め、まず、本案前の抗弁として、不服申立人らには、不服申立ての資格がないと主張し、その理由として、

(一) 違法な行政処分に対する不服申立てについて、その資格があるか否かは、取消訴訟における原告適格に関する判例、学説を参考にして決すべきである。原告適格につき、行政事件訴訟法第九条は「法律上の利益を有する者に限り提起することができる」旨規定しており、この「法律上の利益を有する者」についての判例、通説は、行政庁の違法な処分により権利のみならず、広く法律上保護された利益を害されたものをも含むとするが、単なる法規の反射的利益ないし事実上の利益だけでは足りないとしている。また、それは、法律上の争訟であるから、個人の具体的な権利ないし利益の侵害があることを主張するものでなければならない。

したがつて、本件不服申立てについても、不服申立人ら自身の具体的な権利ないし法律上の利益が侵害せられたと主張するものでなければ、不服申立ての資格を欠くことになる。

(二) 独占禁止法は、第一条において、公正かつ自由な競争を通じ一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする旨規定していることから、独占禁止法の保護法益にあること、したがつて、右の一般消費者も個々の消費者ではなく、国民大衆を意味するものであることは明らかであり、独占禁止法の特例法として制定された景品表示法においても、不当な顧客誘引行為を禁止することにより一般消費者の利益を保護することを目的として掲げている。以上のことから、景品表示法における一般消費者も、右と同様の意味に解すべきである。

景品表示法第十条第二項第二号が「一般消費者(中略)の利益を不当に害するおそれがないこと」と規定しているが、これは、公正競争規約認定の要件を定めたものであつて、直接個々の消費者の利益を保護法益とする旨を定めたものではない。公正取引委員会は、公正競争規約を認定するに当つては、公聴会を開いて消費者からも意見を徴しているが、これは、一般消費者の利益を不当に害するおそれがないか否かを判断する資料とするために行なつているものである。

以上の次第で景品表示法は、公共の利益を保護するものであるから、民衆訴訟に関する規定がおかれていない同法においては、個々の消費者またはその一部の集合にすぎない不服申立人らに、不服申立ての資格はない。

(三) 不服申立人らは、かりに一般消費者を集団と解するとしても、集団利益の侵害につき、その集団の一員に原告適格を認めるべきであるとする最近の判例、学説の傾向からみて、消費者集団の一員であり、その集団の利益を代表する不服申立人らに不服申立ての資格を認めるべきであるというが、判例、通説は、不服申立人らの主張とは異なり、右のような集団利益の侵害について、その一員に原告適格を認めていないし、また、景品表示法に規定する一般消費者は、不服申立人らのいう消費者の集団とは次元を異にする国民大衆であるから、この点に関する主張も失当である。

と述べ、さらに、不服申立人らの主張に対し、

(第一点) 果汁規約に定める「合成着色飲料」、「香料使用」等の表示は、不服申立人らの指摘する「果汁ゼロ」、「果汁を含まず」の表示に比し、より適切なものとはいい難いが、果汁表示制度の一環としての表示方法であり、また、果汁を含むと印象づける最も重要な要素である色、香味が、人工のものであることを明らかにした表示であるから、誤認を生ずるおそれはない。

(第二点) 果汁規約においては、果汁に含まれるアミノ酸が天然のものであるか、人工のものであるかを測定する検査方法も、随時、用いることになつている。

(第三点) 印刷びんにあつても、果実の種類名のほか、果汁規約第三条第二項第一号の規定により、果汁含有率の表示が義務づけられているので、その残りの大部分が水であることは容易に識別することができる。

(第四点) 「ジュース」および「ジュースドリンク」以外のジュースということばを含む名称の使用を広く制限する趣旨において、果汁規約は不服申立人らの主張と異なるところはない。このことは、果汁規約第五条全体とくに第一項第一号ないし第三号の規定の趣旨を総合してみれば明らかである。

(第五点) 果汁規約附則第一項に規定する「規則に定める日」については、すでに昭和四十七年二月四日と定められており、また、同附則第三項の規定を定めたのは、新旧印刷びんの切換えにそれ程長期間を要するものではなく、経過措置として認めたものである。

と答弁し、証拠として、景第一号証から景第十四号証提出した。

三 参加人は、不服申立ての資格については、審判立会官の主張をすべて援用すると述べ、さらに不服申立人らの主張に対し審判立会官の意見を援用して、本件公正競争規約については、必要にしてかつ十分であり、本件認定処分には取消さねばならない瑕疵もなく違法なものではない。

と主張した。

理由

本件不服申立人らの不服申立ての資格については、次のとおり思料する。

(一) 行政処分に関する不服申立制度の目的は、行政の適正な運営を確保するにあると同時に、一面、それはあくまで国民の権利、利益の救済を図ることにある。しかして、不服申立ては、司法救済につらなるものであるから、不服の申立てをなしうるものは、行政事件訴訟法第九条にいう「律法上の利益を有する者」とその範囲を同じくし、しかも、この「法律上の利益を有する者」とは、法律上の争訟手続において、具体的、個別的な権利ないし法律上保護された利益が直接侵害されたか、少くとも必然的に侵害されると主張しうる者でなければならない。この理は、景品表示法第十条第六項の規定による公正競争規約の認定に対する不服の申立てについても異なるところはない。

したがつて、景品表示法第十条第六項の「不服あるもの」も、行政処分によつて申立人の具体的、個別的な権利ないしは法律上保護された利益が直接侵害されたか、少くとも必然的に侵害されると主張する資格のあるものでなければならない。

(二) 景品表示法は、もともと、独占禁止法の不公正な取引方法の一として独占禁止法によつても規制しうる不当な景品類の提供および不当な表示行為について、これをより迅速かつ効果的に規制するため、特例として制定されたものであり。その目的は、独占禁止法と同様に、公正な競争を確保し、もつて一般消費者の利益を保護することにある。

そして、この目的を達成するため、景品表示法第三条(景品類の制限及び禁止)、第四条(不当な表示の禁止)および第六項(排除命令)において同法に違反する行為の禁止および排除の規定が定められている。さらに、同法第十条において、事業者がその自主的規制措置として公正競争規約の制度が設けられており、公正取引委員会がこれを認定するに当つては、その裁量により、必らず、公聴会を開き、消費者の意見をきき、一般消費者の利益擁護について最善の努力をはらつている。

(三) 本件不服申立ての理由の趣旨は、果汁規約が景品表示法第十条第二項の規定に違反して認定されたため、一般消費者の利益を不当に害するおそれがあるというものであつて、不服申立人ら自身の具体的、個別的な権利ないしは法律上の利益が必然的に侵害されるというものではなく、かつ、右同法第十条第二項第二号において「一般消費者(中略)の利益を不当に害するおそれがない」ことを規定しているのは、公正競争規約の認定の要件を定めたものであつて、それがただちに一般消費者に対し、不服申立ての資格を付与したものとは解すべきではない。また、景品表示法に民衆訴訟制度の定めのない以上、かかる主張の限りにおいては、不服申立人らに、不服申立ての資格は認められないというべきである。

(四) なお、不服申立人らは、不服申立ての資格ありとの論拠として、内田MFC研究所に対する審決および独占禁止法第二十四条の三の不況カルテルに関する規定の解釈を引用しているが、前者については事案を異にし、適切な前例とはいい難いし、また、後者については、本件事案についてすでに述べたところとなんら異なることがないので、採用するに値しない。なお、不服申立人らは、不服申立ての性格から行政庁はそれについて広く門戸を開くべしと主張しているが、事実上の措置はともかく、本件行政処分が違法であるとする法律上の不服申立ては、到底これを是認することはできない。

ちなみに、審判の過程で提出された前掲各証拠の趣旨を審案すれば、次のとおりである。

(一) 不服申立ての理由第一点については、本件果汁規約が、早期にこれを制定すべきことの強い要請と、それが事業者の自主的規制措置であることからする制約のもとに設定されたものであるだけに、最善の策とはいえないにしても、この表示が消費者の商品選択を誤らせるものとはいい難いし、この表示制度が一般に浸透し、定着すれば、より適切な効果をもたらすものと期待しての措置である。

(二) 不服申立ての理由第二点ないし第四点については、不服申立人らの果汁規約についての解釈の誤りないし同規約の運用の問題であるに過ぎず、失当とはいえない。

(三) 不服申立ての理由第五点については、その前段の主張はすでに解決ずみで理由はなく、後段の主張については単に経過的措置に関するものであつて、全体に影響するものではないから、これをもつて、違法とすることとはできない。

以上述べたところによつて明らかなように、不服申立人らの本件不服申立ては、その資格を欠き却下をまぬがれないので、景品表示法第十条第六項の規定を適用し、主文のとおり審決する。

昭和四十八年三月十四日

公正取引委員会

委員長 高橋俊英

委員 高橋勝好

委員 橋本徳男

委員 呉文二

委員 滝川正久

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